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あの日の声を探して

アカデミー賞5冠に輝いた『アーティスト』の監督が激しく心揺さぶるテーマに挑んだ 衝撃の感動作!!

4月24日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開<br><br>(c)La Petite Reine / La Classe Américaine / Roger Arpajou
4月24日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開

(c)La Petite Reine / La Classe Américaine / Roger Arpajou
あの日の声を探して

監督・脚本: ミシェル・アザナヴィシウス (「アーティスト」)
出演: ベレニス・ベジョ (「アーティスト」)、アネット・ベニング(「キッズ・オールライト」)、マキシム・エメリヤノフ、アブドクル・カリム・ママツイエフ、ズクラ・ドゥイシュビリ
【ストーリー】
1999年、チェチェンに暮らす9歳のハジは、両親を銃殺されたショックで声を失ってしまう。姉も殺されたと思い、まだ赤ん坊の弟を見知らぬ人の家の前に捨て、一人放浪するハジ。彼のような子どもさえも、ロシア軍は容赦なく攻撃していた。ロシア軍から逃げ、街へ辿りついたハジは、フランスから調査に来たEU職員のキャロルに拾われる。自分の手では何も世界を変えられないと知ったキャロルは、せめて目の前の小さな命を守りたいと願い始める。
ハジがどうしても伝えたかったこととは?生き別れた姉弟と再び会うことができるのか――?
【みどころ】
最初の画面が現れたとき、正直この作品を見に来たことを少しだけ後悔した。それほど目の前に繰り広げられる光景は悲惨でむごたらしく、残虐だった。本来は同じ人間なのに、戦争という悪魔は人々を強制的に強い者と弱い者に分離し、どこまでも弱者を痛めつける。たとえ戦争に勝ったとしても、そこには本当の勝利はない。
ある本の中に、人間の運命を決定するのはDNAではなく、環境のシグナルだと書いてあったのを思い出した。病気も人格も、遺伝子ではなく、その人の育った環境や経験が決定すると。

目の前で家族を失ったショックで話せなくなった少年ハジは、最悪の環境に突き落とされながらも、キャロルの暖かさと思いやりに触れていくうちに少しずつ心を開いていく。一方、コーリヤはごく普通の音楽好きで女の子とのデートを心待ちにしている好青年だったが、軍隊であまりにも壮絶ないじめにあったことで、次第に被害者から加害者へと変貌していく。そして、自分の家族を疎ましいと思っていたキャロルは、家族を失ったハジの心の痛みを共有するうちに、次第に本来の人間らしさを取り戻していく。人間というのは、身を置いた環境でいかようにも変化していく生き物であることをまざまざと見せつけられた。

監督は、白黒で甘く切ない愛の物語を描いたサイレント映画「アーティスト」でアカデミー賞を獲得したミシェル・アザナヴィシウス。彼自身がヨーロッパ系ユダヤ人であることから、この作品を撮ることは長い間の彼の願いだった。

世界のどこかでこのような戦争は常に起きている。おそらく一番の罪は、その渦中でもがき苦しむ人々がいる現状に対して私たちが無関心でいることだろう。私自身、チェチェン紛争のことはニュースでちょっと目にしたぐらいで、恥ずかしながら実情をよく知らなかった。これからはマスコミがあまり取り上げない世界情勢を自らの手で知る努力をしていかなければならないと痛感した。

ハジとその姉のライッサを演じたのは、オーディションで選ばれた十代の素人の若者だが、初めての演技とは思えない深い豊かな感情表現には胸を打たれた。言葉を出せないハジの悲痛な表情、自分の安住より弟たちを探す過酷な道を選ぶ姉の強さと優しさ。特に彼女は、女優になることよりも、誰かがこの役を通してチェチェンで起きたことを世の中に伝えなければならない、だったら自分がそれを引き受けようと思ったそうだ。
この作品をひとりでも多くの人に見てもらい、私たちが知らない場所で起きている悲惨な現状に少しでも目を向けてもらえたらうれしいと思う。
Text by Yumi